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東京地方裁判所 平成9年(ワ)7892号 判決 1999年3月29日

主文

一  被告は、原告貴島法子に対し金八五八万円、原告貴島晃に対し金二四二万六〇三五円、原告貴島恭子に対し金一六三万六〇三五円及び右各金員に対する平成七年三月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一一分し、その三を被告の負担とし、その余は原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告貴島法子に対し金一五八〇万円、原告貴島晃に対し金一五七六万二二七八円、原告貴島恭子に対し金一四五六万二二七八円及び右各金員に対する平成七年三月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故により死亡した被害者の遺族が、加害者に対し、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実

1  交通事故の発生(当事者間に争いがない。)

貴島達也は、次の交通事故(以下、「本件事故」という。)による受傷により、事故同日死亡した。

(一) 日時 平成七年三月四日午前〇時三三分ころ

(二) 場所 東京都台東区秋葉原六番八号先路上

(三) 態様 人(亡貴島達也)対車両(被告車両)の事故

(四) 被告車両 被告運転の普通乗用自動車(足立五四て三八四四)

2  責任原因(当事者間に争いがない。)

被告は、加害車両である普通乗用自動車を保有し、自己のために運行の用に供していたものであり、自賠法三条に基づく損害賠償責任がある。

3  身分関係(甲六、七、三八によって認められる。)

(一) 原告貴島法子は亡達也の妻、原告貴島晃は亡達也の父、原告貴島恭子は亡達也の母である。

(二) 原告法子は、平成七年六月二日亡達也の相続放棄の申述をした。

4  損害てん補(当事者間に争いがない。)

原告らは、自賠責保険金として合計三〇一〇万〇四九八円の支払を受け(うち三〇〇〇万円の支払日は、平成七年八月三一日であり、原告らは右金員に対する本件事故日から支払日までの民法所定年五分の遅延損害金にまず充当したとする。)、二分の一ずつ原告晃及び同恭子の損害賠償請求権(亡達也からの相続分を含む。)にてん補された。

二  本件の争点

損害額の一部に争いがあるほか、事故態様(過失相殺)に主として争いがある。

第三争点に対する判断

一  証拠から容易に認められる事故状況

証拠(甲一ないし六、三四の1、2、三九、乙一、二、五、証人神野直、証人手塚泰、被告本人)によれば、本件事故の状況等について次の事実が容易に認められる。

1  事故現場の状況

(一) 本件事故現場は、東西に走る蔵前橋通りと南北に走る昭和通り(国道四号線)が交差する信号機による交通整理が行われている台東一丁目交差点(以下、「本件交差点」という。)の南側昭和通り上であり、深夜でも交通量が多く、最高速度時速六〇キロメートル、歩行者横断禁止等の交通規制がされている。

(二) 本件事故現場付近の昭和通りは、車道幅員約三二メートル、片側三車線で、中央部は上下線の分離帯で仕切られた二車線の右折専用車線が設けられており、ほぼ直線で、被告車両の進行方向である秋葉原駅方面からは約八〇メートル先の障害物が視認できた。

(三) 本件事故当時は、深夜で、雨が降って、路面は湿潤していた。

(四) 本件交差点南側昭和通りの横断歩道付近上には、達也の遺留品と思われる腕時計の破片及び繊維片が、北向き進行車線第一通行帯付近の横断歩道の南端付近から北端付近まで、歩道の縁石から三・二メートルないし一・二二メートルの範囲に散乱していた。

2  被告車両の進行経路

(一) 被告は、被告車両(セリカXX)を運転して、昭和通りを秋葉原駅方面から千住方面に向けて第二通行帯を北上して本件交差点手前付近に至ったが、前方の本件交差点の信号が赤色を表示していたことから第二通行帯には既に信号待ちのため少なくとも五台以上の車両が縦に連なって停止していたため、その最後尾に停車して信号待ちをした。

(二) 被告は、停車するや歩道寄りの第一通行帯には信号待ちの車両がいなかったことから、すぐに第一通行帯に車線変更をし、本件交差点に向けて進行していったが、前方の信号が青色表示に変わったことから、速度を上げて本件交差点に向けて進行した。

(三) 被告は、本件交差点手前の第一通行帯上ほぼ中央付近で達也を轢いたが、停車せずに、達也を被告車両底部に引きずったまま本件交差点を通過し、約三〇メートル交差点を越えた地点で停車した。

3  達也の死亡原因

達也は、被告車両の下から救助されて病院に搬送されたが、骨盤骨折等の負傷をしており、本件事故から程なくして、腹部総腸骨動脈破裂による失血を主たる原因として死亡した。

二  礫過時の達也の姿勢・位置

本件において、被告車両が達也を礫過したことは明らかであるが、その際の達也の姿勢や位置について争いがあるので検討する。

1  衝突痕等からの推認

被告車両の実況見分調書(甲三)によれば、本件事故後、被告車両のフロントバンパー、車体底部等に擦過痕、払拭痕があり、車体左側後輪付近に血痕が付着していたことが認められる。このうち、フロントバンパー及びスカート部の生地痕様の擦過痕が、達也の体と被告車両の最初の接触より生じたものと推認できる。

また、前記一の事故後の状況からして、被告車両は達也をボンネット上に跳ね上げたりせず、車体が人体を礫過している点に照らすと、少なくとも衝突時点での達也の身体の重心は被告車両のボンネットよりも下方にあったことが推認できる。

2  目撃状況等からの推認

(一) 証人手塚泰が供述する本件事故の目撃状況は次のとおりである。

手塚は、同人の車両(パジェロ)を運転して、被告車両の後方から同様に昭和通りの第二通行帯を北上して本件交差点手前付近に至り、前方の信号待ち車両約一〇台に続いて停車したところ、本件交差点南側の停止線(四輪車の停止線。以下、単に「停止線」という場合、四輪車の停止線を指す。)付近の第三通行帯と第二通行帯との間を男(達也と思われる)が左(西)方向に這っていくのが見えた。男は、四つん這いに手と足を路面につけ、膝をあげた状態で進んでいったが、すぐに前方の車両の陰に隠れた。その後、三台ほど前に停止していたセリカ(被告車両と思われる)が、発進して車線を変更して第一通行帯に進行してゆき、前方の信号表示が青色を示すと同時に加速していくのが見えた。セリカが停止線付近に差し掛かったときにセリカの屋根の右側が三、四〇センチメートル上に上がり、大きく傾いたが、そのままセリカは本件交差点を進行していった。手塚も自車を発進させ、本件交差点を通過していったが、通過した先の第一通行帯にセリカが停車しており、セリカの車体右下から男の足の部分が見えていたので、交番に事故を通報しに行った。

(二) 右供述の信用性について検討する。まず、証人手塚の目撃位置は、約一〇台も連なった後方から、しかも、運転席内からのものではあるが、同人の乗車していた車両はパジェロで車高は高く(甲二三の1、2)、前方に停止していた車両は右パジェロよりも車高の低い乗用車ばかりであった(同証人の証言)上、前記一記載のとおり、本件交差点手前はほぼ直線であったし、本件事故当時は深夜で雨が降っていたが、街灯や停車していた車両のヘッドライトなどである程度の明るさは確保されていたと考えられるから、少なくとも第二通行帯と第三通行帯の間の視認状況は良かったと考えられる。また、目撃された達也の状況は、前記一認定の達也の事故状況や負傷状況とも客観的に合致している。したがって、同証人が当初目撃した達也の姿勢等に関する供述は十分信用できると思われる。これに対し、実況見分調書における同証人の指示説明は、同証人が第二通行帯と第一通行帯の間に歩行者を発見したような記載になっている(甲二)。しかし、同証人の運転席は右側にあり、このような位置に達也がいた場合は視認困難と考えられるから、右指示説明の記載は不正確なものと解さざるを得ない。

次に、セリカの屋根が上がったという点について検討するに、前記一認定の事故状況、すなわち、被告車両は、達也を跳ね飛ばさずに轢過しているという状況、達也の負傷状況及び被告車両の損傷状況などとも合致しており、本件事故を目撃したものとして、十分信用できる。

もっとも、同証人は、本件事故の瞬間の達也の姿自体を目撃しているわけではないから、その瞬間の達也の姿勢は、同証言から直接明らかではない。しかし、本件事故前後の事情に照らすと、同証人が達也の姿を見失ってから本件事故までの時間が余りたっていないと解されるから、達也は四つん這いになって第三通行帯から第二通行帯を通過して第一通行帯へ向かい、その場で被告車両に轢過されたものとみるのが合理的である。また、前記1記載の衝突痕からも、本件事故の際、達也が頭部を歩道方向に向け、四つん這いに手と足を路面につけた状態であったものと考えて矛盾はない。したがって、本件事故の際の達也の姿勢は、達也が膝を上げていたかどうかはともかくとして、ほぼ同証人が最初に第三通行帯と第二通行帯の間で目撃したのと同様であったものと推認できる。

なお、医師山本俊昭の鑑定意見書(甲三九)は、頭部に強打を認めないことから、頭部はヘッドライトよりも比較的高い位置にあったとした上で、肩関節及び上腕骨に骨折が認められ、足に骨折が認められない状況と総腸骨動脈以下の末梢血管からの出血を考慮して、頭部が比較的高い位置を保つ両手両膝を着いた体勢から、ウサギ飛び体勢の間に類似する体勢で衝撃を受けたものと推認している。同意見書はレントゲンなどその意見の根拠とした資料が証拠とされていないなどの問題はあるが、一般的に考えて達也は被告車両との衝突の瞬間には自己防御のためその場から飛びのこうとした可能性があるから、頭を起こし膝を着けた体勢にあったとしても不合理ではなく、そう考えても死体検案書(乙二)記載の負傷状況とも矛盾はない(こう考えても、達也の重心自体はボンネットよりも低い位置にあることになり、衝突痕や事故後の状況とも矛盾しない。)。もっとも、この点は、衝突のごく直前の問題であり、これに対し、被告が達也を発見可能かつ回避可能な最終時点での達也の姿勢は従前と変わりない四つん這いの可能性が高いものと推認される。

3  被告の供述の検討

ところで、本件事故について、被告は人間を轢過したことに気がつかなかったというので、その供述の信用性について検討する。

被告の供述(本人尋問、乙五)によれば、被告は昭和通りの第二通行帯を北上して本件交差点手前に至り、信号待ちの車両に続いて停車した後、第一通行帯の停車車両がなかったことから、発進して第一通行帯に進路変更して進行し、すぐに対面信号が青色を表示したので加速したところ、左前輪が持ち上がりゴトンという大きな音と衝撃を感じたが、自転車か何かを乗り越えたと考え、本件交差点を通過してから外そうと考えて、本件交差点をそのまま通過したが、車体が重く何かを引きずったような違和感が大きくなり、三〇メートルくらい交差点を越えたところで停車し、運転席から降りて右後部をみたところ、人間の足首が右後輪の近くに見えたというのである。

しかしながら、前記一記載の道路の見通し状況に照らして、仮に、達也が道路上に横臥していたとしても、被告車両から十分手前で達也を発見できたと解されるから、被告が達也を発見できなかったのは、被告の前方不注視によるものであり、達也が横臥していたことにあるのではないと解される。また、前記衝突痕、負傷状況や証人手塚の目撃状況からも、違也が横臥していたとは考えられない。よって、被告の供述は、達也の姿勢に関する前記認定を何ら左右するものではない。

4  本件事故の場所の特定

次に、本件事故の場所がさらに特定できないかを検討する。

前記一記載の遺留品の状況に照らすと、本件事故による衝撃で達也の所持品が本件交差点方向に飛び散ることが考えられるから、本件事故の場所は、本件交差点の南側の横断歩道の南端よりもある程度南側であったと考えられる。

この点についての被告の供述によれば、被告が車体に衝撃を感じた位置は停止線の手前約一〇・二メートルの地点であったとする。しかし、被告は、前記のとおり前方不注視であり、被告が衝突時点を正確に認識しているか疑問であり、衝突後も本件交差点手前で停止せずに交差点を通過するに至っていることからみても、衝突地点はさらに本件交差点寄りであった可能性が高いと解される。

次に、証人手塚の目撃した位置について検討する。同証人の供述によれば、同証人がセリカの屋根が上がったのを目撃した際のセリカの位置は停止線付近であったとしている。同証人の目撃位置は被告車両からかなり後方であって屋根しか目撃していないから、距離の正確性は問題なしとしない。しかし、第二通行帯は信号待ちの車両が一〇台以上連なっていたことが前記のとおり明らかであるから、達也が横切ってきたのはそれらの車両の先頭すなわち停止線付近かそれよりも本件交差点寄りであると考えるのが合理的である。

以上を総合すると、達也は第一通行帯上の本件交差点南側の停止線付近を四つん這いになって歩道側(西)に進行中、被告車両に轢過されたものと認めるのが相当である。

三  被告車両の速度

1  次に、本件事故時の被告車両の速度について検討する。被告車両の速度については、明確な証拠はないが、被告車両が達也を轢過してから停止せずに本件交差点を通過している点に照らすと、ある程度の速度は出ていたのではないかと考えられる。被告車両は第一通行帯に進行して、対面青信号により加速した直後ではあるが、被告車両はいわゆるスポーツタイプの車両で加速性能は一般車よりも優れていると考えられるから、相当の速度に達していた可能性がある。

2  この点について、被告は時速約二五キロメートルと供述しているが、その根拠としているのはギアを二速にシフトチェンジした後で三速にはシフトしていないからだという。しかし、そのような速度だと達也を轢過し、さらに相当距離を走行したことと符合せず、信用することができない。

3  証人手塚の供述によれば、本件事故時の被告車両の速度は時速四〇ないし五〇キロメートルとしているところ、同人は後方から目撃しているだけで正確な速度までは認識できないと考えられる。もっとも、一応の運転者の感覚として、相当な速度が出ていたことを感じていたことが窺える。

4  以上を総合し、ことに右1の事故状況に照らすと、本件事故時の被告車両の速度は少なくとも時速四〇キロメートル前後程度には達していたことが窺える。

四  達也が事故現場に至った事情

ところで、達也が本件事故に遭った状況はかなり異常であるから、達也が事故現場に至った経緯について検討する。

1  友人と別れるまでの状況

証拠(甲一八、一九、二一)によれば、達也が本件事故現場付近に至る前の足取りで確実なところは次のとおりと認められる。

達也は、平成七年三月三日勤め先を退社後、友人細谷毅史と秋葉原でパンコン店を数店回った後、午後八時ころから同人と岩本町の居酒屋「天狗」に入り、午後一一時三〇分ころまでの間、二人でビール中ジョッキ三本、日本酒しぼりたて(小)一本、生酒(大)二本、生酒(小)四本など合計約九〇〇〇円相当の酒食を注文して飲食した。その後二人は店を出て、JR秋葉原駅まで歩いていき、細谷は午後一一時四〇分ころ一人でJR線に乗車するため、改札口で達也と別れた。

2  友人と別れてから本件事故までの状況

問題は、友人と別れてから本件事故までの約五〇分間の足取りであるが、本件事故現場とJR秋葉原駅とは距離が離れていないから、達也はその間JR秋葉原駅の周辺を歩き回っていたものと推認できる。

次に、証人神野直の証言によれば、本件事故のすぐ前に本件交差点南側の停止線付近で、信号待ちしている車両のところに男が寄っていった姿が目撃されたという通報が警察にされていたことが認められ、また、証人手塚泰の証言によれば、同証人が実況見分に立ち会うために現場に待機中、付近にいたタクシーの運転手から同証人が信号待ちをした赤信号の一つ前の赤信号の際にトラックの助手席のステップに上り、話しかけている人がいたが青信号のときに振り落とされたと聞いたことが認められる。これらの証言は、いずれも伝聞であって、その詳細は不明確というほかないが、これらの目撃された人物が達也と同一人物と考えると本件事故の状況とかなり符合しているので、これらの目撃された人物が達也と同一人物である可能性は高いものと考えられる。

右達也の行動について、原告らは、達也が所持していた財布や定期等の入った鞄を置き引きされ、帰宅の手段として、いわゆるヒッチハイクをしていたものと推測しているが、原告恭子が達也の遺留品として受け取った中にあった金銭が六二七円程度の小銭だけであったこと(若干の金銭は更に現場に散乱した可能性はある。)(甲二六)に照らすと、達也が定期や十分な金銭を所持していなかった理由の詳細はともかくとして、達也がヒッチハイクをしていたとの推測はあながち否定することはできないように思われる。もっとも、達也が四つん這いになっていた理由の詳細については本件の証拠からは確定できない。

3  達也の飲酒の状況

達也の飲酒の状況は、前記1記載のとおりであり、右飲酒の状況に照らすと本件事故当時はある程度酒に酔った状態であったことが推認できる。また、達也の血液について本件事故後警察で行われた鑑定によれば、血液一ミリリットル中のアルコール含有量が二・二ミリグラムであり(乙四、東京地方検察庁に対する調査嘱託の結果)、この血液採取及び鑑定の過程に特段疑義を差し挟む余地はないから、酩酊の度合いは個人差があるものの、本件事故直前の行動をも総合すると、本件事故当時達也はかなり酒に酔った状態であったことは疑いようがない。

五  過失相殺についての判断

以上の認定の事故状況を前提として、双方の過失の程度について判断する。まず、被告については、当日は雨で深夜ではあったが、現場の見通しはよかったのであり、達也の姿勢も横臥ではなく、両手両足を路面に着けて体を支えた四つん這い状態になって動いていたと解されるから、十分手前で発見できたと考えられ、被告が衝突まで全く気がついていないのは、前方の不注視が著しかったものと評価できる。また、衝突を感じたのに直ちに停止せずに、達也を車体底部に引きずったまま交差点を通過し、交差点を約三〇メートルも過ぎてから停止している点は、達也の負傷を拡大した可能性が高く、過失が大きいといわざるを得ない。被告は、自転車か何かを乗り越えたと思ったと供述しているが、自転車と認識できる合理的理由は何ら見いだせないから、少なくとも同人は直ちに停止の措置を講じるべきであった。また、対面信号が青色に変わった直後であり、本件交差点手前の停止線付近を通過する際には、一般的にいえば信号残りの歩行者が横断してくる可能性なども否定できないから、もう少し慎重な運転が望まれるところであった。

もっとも、達也についても、深夜とはいえ交通量の多い幹線道路の真ん中に立ち入るなど極めて危険の高い行為であり、酔余のこととはいえ、かなり軽率な行為であったと評価される。仮に、原告らが主張するように達也が定期や所持金を失ったとしたとしても、着払いでタクシーに乗車するなり、若干の小銭は持っていたから家族知人に電話するなり、友人知人宅に行くなり、安全な帰宅方法はいくらも取り得たのであり、幹線道路の真ん中でヒッチハイクするなどといった危険な方法を選択する理由は何もなかった。本件事故当時、四つん這いになっていたのには、第三者の行為が関与している疑いがあるが、そのことを達也に有利に割り引いても達也の過失は少なくない。

以上に認定した事故態様を総合し、双方の過失を比較すると、過失相殺として原告らの損害額の四割を減ずるのが相当と認められる。

六  損害関係

1  本件事故により原告らに生じた損害額は別紙損害計算表記載のとおりと認められる(端数処理は、いずれも円未満切下げ)。

2  慰謝料額

亡達也は、社会に出て家庭も持ち、これからを期待される年齢であったのに、突然に同人を失った原告ら家族の痛みは察するに余りある。本件において、当初、亡達也が本件事故現場に至った事情が不明であり、前記認定の程度までようやく判明するに至ったのは原告らの地道な調査の結果であり、こうした点にも原告らの亡達也に対する愛情の深かったことは十分に窺え、かえって、その悲しみの大きかったことも拝察される。以上の事情のほか、本件に顕れた一切の事情を総合し、原告ら各自につき別紙損害計算表記載のとおりの慰謝料額を相当と認めた。

3  弁護士費用相当損害額

本件事案の内容、認容額等に照らし、本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額を、原告ら各自につき別紙損害計算表記載のとおりとするのが相当と認めた。

七  結論

よって、原告らの本訴請求は、別紙損害計算表各認容額記載のとおりの金員及びこれらに対する本件不法行為の日である平成七年三月四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

(裁判官 松谷佳樹)

別紙 9(ワ)7892 損害計算書

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